沈黙の詩~京都思い出探偵ファイル~
鏑木 蓮/著
このシリーズの舞台となる職場は探偵事務所。とはいっても、探偵と聞いてたいていの人が真っ先に思い浮かべるような仕事ではない。その調査の内容は、人の心の中にあるはずの“思い出”を探すことだ。元捜査一課の刑事であった所長をはじめ、悲惨な事件で家族を喪った女性、コミュニケーション能力に難ありの医者の卵、シングルマザーの元看護師・・・という個性的な面々がそれぞれに得意分野を活かしながら思い出探しに奔走する。
今回の依頼は、80代の女性の思い出を探すこと。うどん店や居酒屋チェーンを切り盛りしてきて、やっと見つけた終の棲家。夫婦2人でゆったりと余生を楽しんでいた矢先に、屋内の事故で記憶を失ってしまった妻。継子でありながら愛情たっぷりに育てられた子どもたちは、なんとか養母の過去を知りたいと願うが、意外なことに最も身近な存在の父も詳しいことは知らなかった。思い出探偵社のメンバー達が西へ南へと足を伸ばし、女性の来し方を訪ね歩く。そして徐々に明らかになってきた彼女の前半生とは・・・。
貧しさ、戦争・・・と、一個人の努力ではどうしようもない力に翻弄されながらも懸命に生きてきた人生。この作品の彼女だけではなく、こんな人はたくさんいるのかもしれない。今も世界の中では戦争が進行中だ。国家が始めた戦争で、何代にもわたって苦しむのは市井の人ばかりだ。やるせないなあ。
読み始めたら作品の中にどっぷりとつかり、彼女の歩んできた人生を早く知りたくてたまらなくなって夢中に読んだ。
シリーズ全体を通して強く感じること。それは・・・もし魔法が使えて本の中に入ることが可能なら、私はこの本の中に入って、思い出探偵社の一員として働いてみたいなあ。こんな素晴らしい仲間のいる職場で仕事ができたらハッピーだなあ。
※子どもの頃、福岡の叔父のところへ行った時、車で案内してくれた叔父が「あれがぼた山たい。」と教えてくれた小ぶりの山々を思い出した。この本を読み、改めて、いろんな場所に名もなき多くの日本人の歴史がつまっているんだなあと思った。
3コメント
2023.03.25 10:41
2023.03.25 09:42
2023.03.25 09:12